会社経営者が自分の退職金に1億円もらっても大丈夫?の話



自分で会社を設立して、数十年の会社経営をした後に退職。大成功と呼べるほどの功績を残した場合はもちろん、そこまで規模を大きくすることがなくても数十年の功績分の退職金をもらいたいと思うことは当たり前のことだと思います。

創業者で社長の退職時はお金が欲しいからというよりも、気分的な問題が非常に大きいと思います。

役員退職金の計算方法

一般的に役員の退職慰労金は次の計算式によって算出して支給されます。退職慰労金=最終の役員報酬月額×役員勤続年数×功績倍率。

功績倍率とは退職する役員が会社にもらたした貢献度を反映させるための補正率のことです。一般的な功績倍率の上限は社長3.0倍、専務2.4倍、常務2.2倍、平取締役1.8倍、監査役1.6倍。この金額内なら問題がないとか、この金額で払えということではなく、あくまで上限の金額です。

そもそも退職金は10億円でも100億円でも会社の好きなだけ支払っても良いのです。しかし役員の退職金には縛りを付けないと利益処分の道具にされてしまうことから会社の費用に落とせる金額は無限ではなく、「退職慰労金=最終の役員報酬月額×役員勤続年数×功績倍率」この金額を基準に、上限と考えて退職金を支払う会社が多い状態です。

過去の判例

2018年の1月に人気泡盛「残波」で有名な比嘉酒造創立者に6億7千万円の退職慰労金が原因の裁判が最高裁で結審しました。残波裁判とも呼ばれて注目を集めた裁判です。

結果は6億7千万円全額が妥当との判決。役員報酬月額については最高裁判決まで持ち込まれて国税側が勝訴しましたが、退職金については高裁でも争われず、実質的に地裁判決で勝負が決した形になりました。

役員報酬月額については最後まで争われましたが、功績倍率については高裁以降に大きく争われることはありませんでした。

功績倍率について

比嘉酒造の裁判では功績倍率が大きな争点になりませんでしたが、過去の判例では2.5倍、2.3倍、1.4倍との判例もあります。3倍という基準は昭和40年から50年にかけて3倍が妥当との判例が元になっている通説であり、多くの税理士が3倍を超えないように指導をし、国税側も3倍を超えると過大と判断する1つの目安となっています。

昭和40年から50年代にかけての判例に「3倍が妥当」とされた判例が多いことが3倍が1つの大きな基準となっています。しかし過去の判例では功績倍率2.5倍、2.3倍、1.4倍が妥当との判例もあるので、3倍とすれば絶対に大丈夫という状況ではありません。

高い功績倍率を示した判例

2017年の判例に面白い判例があります。原告は功績倍率を6.49倍で計算しました。課税庁側は県内の留次5者の平均退職金平均功績倍率である3.29倍を主張。

判決は「平均功績倍率を少しでも超えるものを高額と考えるのは硬直的と指摘」、平均からある程度離れることは許容するのが妥当と認め、許容できる範囲を平均の1.5倍との基準を示し、平均功績倍率3.26倍の1.5倍である4.89倍を超える部分に対してだけ損金として認めないとの判決を下した。

原告 6.49倍
税当局 3.26倍
判決 3.26倍×1.5倍=4.89倍
このような判決を下しました。

判決理由

納税者が県内の類似法人の役員給与や功績倍率を知る術がなく、知る術がない類似法人の平均値を採用することは不可能であること。しかし高額な退職金を際限なくいくらでも許容することはない。という裁判所の判断です。適当と言えば超適当です。平均の1.5倍くらいならいいんじゃん!程度の感覚です。税金ってこんな感じで適当でいい加減なことが多いんです。

今後同県内の類似法人平均功績倍率の1.5倍が新しい基準となっていくかどうかはまだ不透明な状況です。しかし大した根拠がなかった40年前くらいの判例を元に運用された続けていた状況を変えるきっかけとなりそうな判例になったことは間違いありません。

具体的にどれくらいの退職金を費用計上できるのか

功績倍率3.0倍でいくつか例をつらつらと書いてみます。

勤続年数20年、最終の役員報酬月額100万円の場合。
100万円×20年×3.0倍=6千万円

勤続年数30年、最終の役員報酬月額100万円の場合。
100万円×30年×3.0倍=9千万円

勤続年数30年、最終の役員報酬月額150万円の場合。
150万円×30年×3.0倍=1億3千5百万円

これが社長への退職金支給額の1つの基準であり、会社が全額費用計上できる金額となります。この金額を必ず支払わなくてはいけないわけではなく、上限の金額として考えるべき金額です。

退職金目的の生命保険

退職金目的を含んだ生命保険の解約返戻金額は上記の計算式を元に計算して計画をするべきなのですが、最近は無計画な保険契約を持ちかけてくる代理店の人が増えてきています。

勤続年数20年で最終役員報酬月額100万円で退職した場合、費用計上できる金額の上限は6千万円です。退職金目的として加入していた生命保険の解約返戻金が1億円だった場合、全額損金計上できる保険の場合は会社が1億円の利益計上、通常の保険の場合は半額だけ費用計上されていて、半額は保険積立金として資産計上されているので5千万円の利益計上をすることになります。

そして社長への退職金6千万円を支給して費用計上をします。解約返戻金受け取り時の利益金額と退職金想定額を計算しておかないと、会社に想定外の利益が出てしまったり、逆にお金が足りなくて退職金支給ができなくなってしまうことになります。

社長退職時に完全に退職してしまう場合であれば未払いであっても費用計上することができるのですが、代表取締役社長を退任して会長に就任(分掌変更等)するなどの場合は全て支払いきらないと費用計上することができません。ここは非常に重要なポイントです。

費用計上できる退職金額に対して生命保険の解約返戻金額が多すぎても無駄な利益になってしまいますし、少なすぎると代表取締役社長職を退任して会長職に就くという分掌変更等時に支払い資金が足りなくなってしまいます。

保険代理店や外交員の質

非常に質は良くないです。しっかりとした人も沢山いますが、法人契約の仕事をするだけの知識を持った人は半分もいないというのが私の印象です。知識がある人であっても、税務調査に立ち会ったことが1度でもある人は皆無です。税に対しては全ての件に関して税務調査の立ち会い経験こそが全てです。

机上のなんたらの部分で足りない人は話になりませんし、机上のなんたらが優秀であっても税務調査に立ち会ったことがない人の話はそのまま鵜呑みにしてしまうのは大変危険です。必ず調査経験豊富な税理士などに相談をしてから保険契約をしてください。

調査立ち会い経験がない生保代理店や外交員であっても判例を細かく調べて勉強している人は信頼できる可能性があります。説明を受けたらその説明根拠、特に判例があるかどうかを聞いてみることでその人の優秀度を判断することができます。代理店や外交員を厳しい目で試してみてください。

退職金をもらった社長の税金の話

上記の金額は会社が費用計上できる金額です。退職金をもらった時にかかる所得税と住民税の金額はまた別の計算になります。

退職金を受け取った時には原則として下記のように計算します。
(退職金額−退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額。

退職所得所の計算方法は勤続年数が20年以下の場合は40万円×勤続年数。勤続年数が21年以上の場合は800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。

勤続年数10年の場合は400万円、20年の場合は800万円、30年の場合は1,500万円、40年の場合は2,200万円までは所得税も住民税も課税されません。無税で退職金を受け取ることができます。

会社で費用計上できる金額と所得税・住民税が無税となる金額の差

この差はものすごく大きいです。退職金目的の生命保険に加入する時の説明では、解約返戻金に対して会社の税金はかからない、退職金と支給した金額を全額費用として計上、もらった退職金に対する所得税と住民税はかからない、かかったとしても微々たるもの。というような説明をされることが多いと思います。

このような説明をされるというよりも、詳細な説明をしないことが多いので勝手にそう思い込んでいまい契約をしてしまうことが多いです。世の中こんなおかしな契約ばかりです。実際に退職金支給時になると想定外の税額の多さに驚愕してしまうことは珍しくありません。

勉強不足の保険のおばちゃんも困りますが、意識高い系の保険代理店や外交員はもっとたちが悪かったりします。退職金目的の生命保険契約をしている会社は今一度信頼のできる人に内容確認をお願いしてみてください。

退職金目的の保険は必要か

私はこんなもったいない保険は必要ないと思います。保険というのはその人やその会社の事情に応じて加入するものするもです。みんなが入っているから入るというのはお金を捨てているのと同じこと。

昔は支払った金額以上の解約返戻金がある商品が沢山ありました。30年くらい前までの話です。その後はいくら解約返戻金率が高くても支払った金額以上に返戻金が多い商品はありません。

代理店などの資料は法人税の負担率も含めて返戻金率を記載した資料を出してくる人もいますが、内容を理解することができないことをわかっていてインチキ資料を出してくる人は信用するべきではありません。

返戻率105%などと書かれいてる資料は、法人税の負担率も含めてややこしい計算が混ざっていて、一般の人が理解するのは難しい資料です。そんな資料を準備して、払った金額以上の金額が戻ってくると誤解させるような手法を取る人との関係は今すぐ切った方が良いと思います。

会計事務所と保険屋の対立

この件に関しては会計事務所と保険屋が対立することが多々あります。だいたい保険屋の無知と強欲さが原因で起きるトラブルなのですが、保険代理店や外交員の話が非常の甘くて美味しい話なので会計事務所の警告とストップを無視して保険代理店と外交員の話を信じて話を進めてしまうことが多いのです。

甘い話には落とし穴だらけです。保険代理店や外交員がオススメしてくる保険は会社がお得な保険ではなく代理店や外交員がお得な保険なのです。説明がもっともらしいことが多いので騙されてしまうことが多いと思いますが、一般的保険関係の人のレベルは高くありません。机上のなんたらはわかっていても実態を知らない人が大多数です。

代理店が得する保険なのか、会社が得する保険なのか納得がいくまで、理解できるまでしっかりと説明をしてもらう必要がありますし、理解できるまでは契約するべきではありません。利害関係がない顧問税理士のアドバイスが一番的確で正しい可能性が高いです。

退職金を目的とした生命保険契約は高額であり、長期間の契約になることが多いので慎重に慎重を重ねてから契約をするべきです。契約は理屈と数字をしっかりと理解してからにしましょう。
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